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主婦とは何なのか

 

 主婦は「職業」なのだろうか?。

 日本における主婦権と女性の関係を考える。

 

「主婦」とは 

 主婦は、総務省統計局の家計調査分類表では「無職:職業のないもの」に分類される。

 日本標準職業分類では職業を「個人が継続的に行い、かつ収入があるもの」と定義し、「仕事をしていても収入を伴わない場合」として「自分の属する世帯のための家事・家庭菜園の作業又は小遣い程度の収入を得て、留守番などに従事している場合」が例示されている。

 しかし「主婦=無職」という論調に抵抗感を感じる人は多く、職業欄に「主婦」の選択肢があればそれを選択する人も多い。

  

広辞苑』には「主婦」は、(1)一家の主人の妻。(2)一家をきりもりしている婦人、女あるじ。とある。

 女性学における主婦の定義は「主婦(housewife):家事責任を負う既婚女性」である。大部分の人間が結婚することが前提である近代社会では、全ての女性が主婦・主婦予備軍とされる。

 また、「主夫(househusband)」は「主婦役割を担当する既婚男性」である。

 社会学者アン・オークレー(1944~)による主婦役割では、①もっぱら女性に振り分けられる、②経済的に夫に依存している、③労働として認知されない、④女にとって主たる役割、と言われている。

 

「主婦」の歴史

 主婦は資本主義の進展に伴い誕生した役割である。「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業は、男性が賃労働者、女性が市場化されない家事労働を担うことで誕生・成立した極めて新しいものだ。(女性学の知見による)

 日本の大正時代、都市において新中間層が成立し、夫の給料のみで家族を養える家族が誕生した。妻は生産労働から解放され、家事労働(育児を含む)に従事するようになった。 一般庶民にそうした家族が普及するのは戦後、1950年代後半の高度経済成長期以降であり、日本における専業主婦の歴史は60年ほどである。

 

 戦後、主婦が日本社会に浸透・普及していく過程で、「主婦」の存在について三次にわたり論争が行われた。

 ‣第一次主婦論争 1955年:石垣綾子(1903-96)「主婦という第二職業論」(『婦人公論』掲載) →主に『婦人公論』誌上で男女の論者が参加し、主婦の職場進出の是非、主婦身分の正当性が論じられた。

 ‣第二次主婦論争 1960年:磯野富士子(1918-2008 評論家)「婦人解放論の混迷」(『朝日ジャーナル』掲載) →家事労働の経済的価値をめぐる問題提起に始まった。

 ‣第三次主婦論争 1972年:武田京子(1933- 主婦)「主婦こそ解放された人間像」(『朝日ジャーナル』掲載) →「夫への寄食」という絶対的依存状態の中での専業主婦のアイデンティティが論点となり、人間の全体性回復、両性の解放、生産中心社会への疑義と社会変革なども論じられた。

 これらの論争は日本社会における主婦身分の地位変動と共鳴していると言えるだろう。

 

 民俗学では、戦前から柳田国男の関心の下、瀬川清子をはじめとして多くの「主婦権」の研究がなされた。

 主婦権とは、家における主婦の役割および権限のことである。

 ①竈をはじめとする家でまつる神々の祭祀者、②日常の生活の切り盛り、③家を代表しての社交(つきあい)、が挙げられる。

 そのため、嫁の里帰りへの許可(家にとっての労働力の管理)は、その家の日常生活を牛耳る主婦(多くの場合は夫方の母、姑)が行っていた。*1

 そうして親たちの隠居が見えてきた頃に「シャモジ(杓子)を渡す」という風習が行われ、ここで姑から嫁へ主婦権が移譲される。

 「主婦」である姑も妻(嫁)も、その家計の労働者の一人として考えられていたのだ。

 

 戦後の民主主義政策、1960年前後の高度経済成長は大きな変化をもたらした。

  農家の嫁不足、シャモジを渡されるまで耐える嫁の絶滅、主婦の家事労働の軽減、有職既婚女性(家計補助的)の増加、70年代以降の専業主婦の減少、などが挙げられる。

 *80年代後半からのこうした変化を捉える民俗学的視点の新たな女性・主婦研究は十分とは言えなかった

 

 現在、「夫は仕事、妻は家事と仕事」という新しい性別役割分担が一般化している。*2

 2012年の内閣府発表の男女共同参画社会に関する世論調査結果では「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考え方について、賛成(51.6%)が反対(45.1%)を上回っている。20代では大幅な賛成増、反対減となり、賛成が反対を上回るのは97年以来のことであるが、これを「若者の保守化」とみるのは早計である。

 就職難や、夫婦での子育てを希望するものの男女ともに仕事と育児の両立が困難な状況、広がる男女の賃金格差、男女雇用機会均等法世代女性の厳しい現状などが、仕事と家庭の両立を選ぶことへのためらいを招いていると考えるのが妥当である。

  

 2016年の内閣府発表の男女共同参画社会に関する世論調査結果では「子どもができても、女性は仕事を続ける方がよい」と考える人の割合が内閣府世論調査で初めて半数を超え、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」と考える人は逆に減少し、女性が働くことへの理解が広がってきたとされている。

 女性が「ずっと仕事を続ける方がよい」と答えた人は54.2%。女性は55.3%で、男性は52.9%だった。20歳以上に限っても前回より9.6ポイント増の54.4%で、1992年の調査開始以来、初めて5割を超えた結果となった。

 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」との考えには、反対が54.3%(4.9ポイント増)で過去2番目に高く、賛成の40.6%(4.0ポイント減)を上回った。

 初めて行われた結婚後の旧姓使用への意識調査では、姓が変わった場合に職場で旧姓を通称として「使いたいと思う」と答えた人は31.1%となった。女性が23.9%、男性が39.5%であり、若い人ほど旧姓使用を望む傾向が強いとみられ、18から29歳が年代別で最多の40.5%であった。*3

 

これからの「しゅふ」 

 職業を「何らかの収入が得られる仕事」とするなら、無償の家事労働をこなす主婦(主夫)は職業ではない。しかし、主婦(主夫)が生活の営みの上で大切かつ必要な「仕事」をしているのは確かである。

 「男は仕事、女は家事」という考え方が一般的だった頃から男女の賃金格差が改善されず、男性の賃金も減額しているなかで「男は仕事、女は家事と仕事」とされる時代になってしまったことによる男女両方への負担をより深く議論していきたい。

 民俗学歴史学の立場からは、こうした「主婦」のあり方や性別役割分担の考え方が後退することのないように社会の動きに注意し、男女雇用機会や家庭観における他国の状況の良い部分を日本社会に当てはめていけないか社会学的な取り組みも必要になると考えている。

 

 

参考文献

〇福田アジオ編『知って役立つ民俗学 現代社会への40の扉』ミネルヴァ書房(2015)

〇マリリン・ヤーロム、林ゆう子訳『<妻>の歴史』慶応義塾大学出版会(2006)

 

*1:日本海沿岸地域にある嫁の里帰り:「センタクガエリとは、嫁が一年のほぼ決まった時期に二度か三度、自分や子供の衣類や蒲団などの調整の目的で、二〇日から三〇日間ほど生家に帰る慣行を指す。(中略)「主婦」の立場になった者は行わない」「バンとは、嫁が定期的に婚家と生家を往来する里帰り慣行を指し、その日数や頻度は、結婚前に嫁と婿双方の母親たちの間で相談して決められた(中略)センタクガエリとバンをあわせると、一年のうち相当長期間を生家で暮らしたことになる。」

八木透「娘・嫁・主婦―女たちの人生街道」『歴博 第183号』国立歴史民俗博物館(2014)

*2:甲斐性のある夫:「女性の側における新たな生活目標の発生は、同時に男性側への新たな生活目標の出現をも意味した。すなわち、農家や商家や職人の生活において「男の甲斐性」が「妻子とともに家業を維持する能力であったものが、サラリーマンの男性にとっては「妻子など家人を食わせる能力」となってきたのである。」

岩男寿美子、原ひろ子『女性学ことはじめ』講談社(昭和54年)

*3:「「夫は外、妻は家庭守るべき」減少 内閣府世論調査」『朝日新聞デジタル』2016/10/30 05:09