『ゴールデン・リバー』感想

『ゴールデン・リバー』(The Sisters Brothers)


(ネタバレ有)

 

ハーマン・カーミット・ウォーム(リズ・アーメッド)とジョン・モリス(ジェイク・ギレンホール)の話。

「W&M」が反転してもWMだって嬉しそうにしてるの、「運命の相手」に出会えたときのハシャぎ方だった。

危険な仕事しながら生きるか死ぬかその日その日で命繋いで30年以上生きてきて、やっと片割れと出会えて楽しくてしょうがないって感じの二人が可愛いかった。‬

‪お互いのイニシャル合わせた「W&M(ウォーム&モリス)」ってロゴ描いて「ひっくり返してもWMだね」「そうだね」「えへへ」「えへへ」みたいなやりとりでキャッキャするウォームとモリス…。あのシーン永遠に観ていたい。‬

‪シスターズ兄弟と作業するようになって、ウォームとモリスがテント裏に二人して歩いていくのを、川での作業から帰ったチャーリーが見てるシーン。あのシーンは何…、ウォームとモリスが二人でテント裏に去っていく(のを見てるチャーリー)…意味深すぎでは。‬

‪あのシーンでチャーリーはWM二人が「めちゃくちゃ仲良しで信頼し合っているのでは」と思って、だから次の川辺のシーンでモリスに「目的は金だろ?まさか本気でウォームを信じてるのか?」って探り入れてるんだよね。それでモリスから「俺はウォームを信じてる」と真っ直ぐに言われてしまい、自分とイーライの兄弟関係とその将来を考える。(で、"将来のための金"に目が眩んで、薬品をかぶって腕に熱傷と腐食を負ってしまう…)‬

‪夜に焚き木を囲んで、ウォームが共同体の夢を語って、モリスと二人で将来に思い馳せながら見つめ合って微笑み合う。焚き木の炎越しにウォームに微笑みかけるモリスと、モリスの視線にすぐ気付いて炎の灯りを受けながら微笑み返すウォーム。‬

‪このシーンの美しさ…。モリスの目にはウォームがあれほどまでに美しく見えているんだね。「たっぷりの薪を燃やして、焚き木をおこして、その炎から青い煙が上がる様をゆったり見る時間が好きだ」とモリスは冒険帳に書いていたけど、その炎の灯りや煙の中にいたのはウォームだったね…。これまでの人生を捨てて、まがい物の自由を手放して、命を賭けて、ウォームを選んだモリス…。このシーン永遠に観ていたい(2度目)。‬

‪チャーリーが薬品(皮膚腐食性)をブッこぼしてしまい、薬品濃度の高くなった場所にいたモリスがまず熱傷の痛みで叫び始めたら、その薬品の危険性を誰より理解しているのにウォームはモリスの場所までバシャバシャ泳ぎ寄ってモリスを助けようとする。すでにもう金なんかよりお互いが大事になってることが分かる。‬

‪憎い父親から離れて冒険したかったモリスは、ウォームに出会って自分が父への復讐心に囚われていたことに思い至り、逃避の冒険や連絡係の金稼ぎを辞めて、残りの人生と金を全てウォームと共に生きることに費やすことにする。死期を悟ったジョン・モリスは、ウォームとの会社/共同体設立のための資金を送金したことについて、シスターズ兄弟にも誰にも何も告げることなく自死を選ぶ。ウォームとの会社に使うつもりだった金を、ウォーム以外に渡すつもりなかったんだと思う。‬

‪民主主義共同体の夢の地を築くことを心に決めて遠い地からアメリカ西部までやってきた天才化学者ハーマン・ウォームは、モリスと出会って共同体の足掛かりを二人の会社にすることに決める。死期を悟ったウォームは、目と耳が腐食と熱傷でほとんど使えなくなっており、側にいるイーライをモリスだと思い込んだままモリスに話しかける。生き残った(と思っている)モリスに「君を遺していくなんてツラい。君の助けになりたかった」と語りかけることから、ウォームの旅もまた、モリスと同じように「二人で過ごす将来」が目的の一つになっていることがわかる。‬

‪モリスが銃自殺したのと、ウォームが息を引き取ったの、ほぼ同時くらいなんじゃないかしら。‬

‪モリスはあの旅でコソコソとウォームの後をつけていたので、酒場でウォームに話しかけられたときに初めて人の顔見て会話する。同じくウォームも、殺されないかヒヤヒヤしながら日雇い労働してその日の食にありつきつつ、余所者扱いされることに警戒しながら旅してたので、あの酒場でモリスに話しかけて初めて人の顔ちゃんと見て会話する。‬

‪ウォームとモリス、川で薬品によって目が焼け爛れる瞬間もお互いを見て「ハーマン」「ジョン」って名前を叫びあってたね。つまり、二人があの旅で最初にキチンと見たのもお互いの顔だし、最後に目に焼き付けたのもお互いの顔なんだね。‬

‪ウォームは「世界は醜悪だ」と言い、モリスも「復讐に取り憑かれた人生だ」と言ったけど、二人が最期に見たものは醜悪や復讐ではなくお互いが心から信じた「片割れの顔」なの、二人の幕引きとしてあまりに美しすぎる。‬

‪クソ野郎だった父親を殺してからどんどん変わっていき、喧嘩で殺人を繰り返し、殺し屋になり、生き急いで、兄イーライの引退の勧めにも耳を貸さず裏社会の提督の後釜を狙ってたチャーリー。人を殺すことに対して何も思っていなかった、それほど"おかしく"なった(とイーライが嘆いた)チャーリーが、自分のせいでモリスとウォームが死んだことに悔やみを見せて、毛布にくるまって泣く。腕もなくなり、自責と自嘲の念でいっぱいになる。‬

‪そうしたシスターズ兄弟が決めた「旅の終わり」が、家に帰って家族で過ごすことなの、本当にしみじみ良い。悪しき父親像やtoxic masculinityを脱却して、セルフケアに努めて相手も労わる。シスターズ兄弟はウォームとモリスの分も幸せに過ごしてほしい。‬

‪ウォームとモリス、あまりにも美しい「火花のようなロマンス」だった。あれは友情であり尊敬であり愛だった。‬


P.S.

ジェイク・ギレンホールリズ・アーメッドの初共演作『ナイトクローラー』も最高だから観よう。私は『ナイトクローラー』からリズ・アーメッドのファンです。(ちなみにジェイク・ギレンホールは『デイ・アフター・トゥモロー』からの『ブローク・バック・マウンテン』でファンになりました。)




※私のこのツイート(https://twitter.com/ubuhanabusa/status/1147164617082191874?s=21)をブログに載せたものです