ミュージカル『ボディガード』(2024)感想

ミュージカル『ボディガード』 感想

 

※ミュージカルおよび原作映画のネタバレあり


 ミュージカル『ボディガード』(2024/03/30)を観て来ました。

 原作映画(1992)が好きだし、生歌を聴くことが目的だった(主演がMayJなら歌は上手いだろうと思ってチケットを取った)ので、期待値より楽しめた。

 特にカーテンコールが元気いっぱいで良かった。曲は日本語訳されていて新鮮。

 主役レイチェル役、やはり歌が良かった。歌を聴きに行ったので、それは大満足。


 
見せ場なはずの「お姫様抱っこシーン」は、フランク役とレイチェル役の体格差がありすぎたのか(というよりレイチェル役がかなり小柄なのに加え、脚や腕を使ったポージングもなくギュッとフランクの首元にしがみついているだけだったので)、シルエットがコンパクトに収まっていて見応えがなく拍子抜けしてしまった。

 「感動のお姫様抱っこシーン」のはずが「胸元でクッション的なものを二つ折りしてる大柄の男性が舞台の真ん中でスポットライト浴びてる」みたいな構図になっていた。
 作り手の意図と裏側に事故的な面白さがあり、そのまま第一幕が終わって休憩に入ったので置いてけぼり感が。

 フランク役の大谷亮平は、かなり駆け足で物語が進む本作において、レイチェルとニッキーの姉妹がなぜ揃いも揃ってフランクに惚れるのかの「説得力」を「HOTだから」で裏打ちしていたので、ナイスキャスティングだと思う。
 本作のロマンスのリアリティラインをかなり底上げしているのは、フランク役のHOTさでした。あとニッキー役AKANE LIVのメロドラマ適用な歌唱表現。


 照明については、客席にライトを向けまくる演出が多く、ライトがこちらに向いている(または反射している)ときは舞台がほぼ見えず。
冒頭のショーのシーンで照明がグルグル回る演出があり、それでガッツリ目に光が当たってしばらく何も見えなかった。その後は目を守るためサングラス掛けました。

 また、ストーカー役キャストがレーザーポインターを客席に向けて使うシーンがあり、ちゃんと壁を狙っているのはわかったが、万が一でも目に当たったらと思うとハラハラしてしまった。 
 強い光がダメな弱視の人に対してはもちろん、晴眼者にも目の負担が大きい演出だと思う。

 観劇好きなんだけど、客席にライトを向ける演出がある(客の目にライトが当たる可能性がある)なら、アナウンスが欲しいし、これもそろそろ注意喚起アナウンスがあって良いはず。 

 

 あと、時代設定を現代に変更しているのだけど、それなのに原作映画(1992)のままな部分が多くて、ノイズが増えていた。
 登場人物の服装とか、犯人の立ち回りとか、捜査の難航具合とか、アカデミー賞に向けての広報とかノミネート数とか、本作の根本である作中歌とか、あれを現代にするには色々と無理がある。

 レイチェルとニッキーの確執を翻案している点は良かったです。原作映画の「女の敵は女」的なミソジニーはかなり薄まっている。これは良かった!
 しかし、フランクが「(俺の警備方針に)今度逆らったら俺の手で殺すかもな」とレイチェルに伝えるシーンについては、原作映画のまま。ここが一番マッチョ思想丸出しのミソジニー溢れるシーンだと思っているので、いくら原作映画のアイコニックなセリフだとしても翻案してほしかった。


 なにはともあれ、カーテンコールからが楽しかったな〜。



 カーテンコールで舞台がパッと明るくなり、舞台奥にバンドも登場し、スパンコールでキラキラな衣装を着たキャストとダンサーが一斉に現れ、舞台全体を広く使って、総出で劇中歌を歌い踊るライブ感と華やかさ!
 カテコでストーカー役の大久保祥太郎がワンセンテンスだけソロで歌い踊っていたのだけど、それだけで「あっ、この人は舞台/ミュージカルが本業なんだな」とわかる歌の上手さ。本編で歌唱シーン無かったの勿体なさすぎる(大勢パートでは歌ってたのだろうけど)。
 
「I Wanna Dance With Somebody」は本編よりこちらのショー形式の方が賑やかで断然楽しめた。
 カテコでワッと盛り上がり、キャストも何度も出て来てくれたので会場が一気に温まってスタンディングオベーションにまで至る。
カテコの盛り上がりからスタオベの雰囲気のまま、主演含めメインキャストから大阪初日の感想会へ。
 ラストは主演MayJからの客席への「大阪〜大好きやで〜!」発言があり、楽しい気分のまま閉演。

 カテコの盛り上がり、客席みんなサイリウムライト(ポキッと折ると光る棒のやつ)を振ってたのもあると思う。
 会場で予め「カテコの際にコレを振ってください」と座席にサイリウムライトが配られていたので、私もカテコでポキッとやって振りました。
 これが楽しかった。カテコを盛り上げたいとか、ラストで大きなショータイムがあるなら、別作品も配れば楽しいと思う。良いですよ。(明る過ぎるペンライトは持ち込み不可だと最初にアナウンスありました)


 終わり良ければ全て良し、を実感しました。
帰宅した今は、「全体的に楽しかったな〜!」という感想です。楽しかったです。ただ照明は眩し過ぎた

 

 全体的に楽しかったという感想。なのだけど、原作映画の重要なポイントを本作は表現し損ねているとのではないかとも思うので、最後に作品全体のテーマについても書いておく。
 原作映画『ボディガード』(1992)の主演はホイットニー・ヒューストン。ホイットニーはアメリカ初の国民的な黒人女性スーパースターであり、音楽ジャンルや人種の壁を「歌って壊した」と謳われる伝説のDIVAなわけで。

 本作もそういう映画である『ボディガード』を基にしたミュージカルだから、物語の細部やセリフにブラックカルチャーが含まれているのだけど、主人公レイチェルがアフロアメリカン/ブラックの女性であることは本作だけ観ていたらわからないと思うので、そこはちゃんと表現してほしかったな。

 舞台においては近年日本でも『ヘアスプレー』『ラグタイム』など、当事者キャスティングができずとも、キャラクターの人種設定を(決して黒塗り/blackfaceをすることなく)衣装などで表現することを成功したミュージカルが増えているので、本作でもそういう方向の模索を観てみたかった。

 レイチェルがあれほどの努力家で自立心があることや、成功を夢見続けていること、ソウルフードを好んでいること、歌う曲のジャンルなど、これら全てはレイチェルというキャラクターがアフロアメリカン/ブラックであることと深く結びついていて、物語の核の一つであると思うので。