同性婚もしくはそれと同等の契約ができる社会をめざして

 

1.はじめに 

 

きっかけ

 私は、恋愛対象に性別のくくりがないパンセクシャル(全性愛者)である。

 これから先、私に人生を共にしたいとおもえるパートナーができたとする。人生を共有する方法はさまざまであり、それぞれの形態にメリットがありデメリットがあることを考慮してお互いにとって心地よい関係を築いていこうと考えたとき、自分たちの関係性にもっとも合った理想の形が結婚だった場合、パートナーの性別によって結婚という選択ができないというのは考えるだけで悲しく、理不尽なことに思えた。

 このような思いをしている人が沢山いる現状をこのままにしておくべきではないという思いで、この記事を書いている。

 

選択肢すら与えられていないという状況

 結婚とは、法律を裏づけとし、社会的に認められて経済的・精神的に互いを助け合いながら共にすごすことであり、恋愛感情を伴うパートナーと人生を共にしたい場合に考えられる手段の一つである。

 しかし現在の日本では、これはパートナーが異性である人にしか与えられていない選択肢だ。

 本来国民には「自由結婚の権利」*1「生命、自由及び幸福追求の権利」*2が与えられているが、憲法が作られたとき同性婚が想定されていなかったというだけで、パートナーが同性ならば共にすごしていく未来を選んでも、そのカップルに結婚の権利はない。

  現在日本には少なくとも人口の7.6%のセクシャル・マイノリティ(性的少数者)が生活している、という調査もある。*3

 この調査によると、約13人に1人がセクシャル・マイノリティである。実際に同性婚を望む人たちが活動しているなか、同性カップルに結婚もしくはそれと同等の契約を行う権利が与えられていない現状に疑問を覚える。

 

2.人権を守る

 

結婚する権利

 私たちは結婚する自由・しない自由、人生における重大なことを決定する自由を持っており、これは権利として保障されている。

 しかし、同性カップルに結婚する自由はない。

 同性婚が認められないのは憲法が定める法の下の平等に反するのではないかとして、この問題の当事者たち445人が申立人となり2015年7月7日、日本弁護士連合会(日弁連)に人権救済を申し立てている。*4私もこの申し立てに賛同の署名を行った。

 

日本において、“結婚している”ということ

 日本では、ある一定の年齢になれば結婚していることが信用につながることや結婚していない者どうしの性交に「遊び=本気ではない」というレッテルが貼られることも少なくはない。

 これは、多くの人が結婚という愛を体現した伝統的な制度に敬意を持っていることの表れでもある。結婚を望む人たちにとって、結婚によって得られる心理的満足感や幸福感、社会的な安定が与えられないことは人生の大きな損害となるだろう。

 

結婚の保障

 結婚することによって法律上、税法上、社会保障上さまざまな保障が得られる。

 民法では結婚が継続している間、お互いに協力して経済的に助け合わなければならないことが定められている。これにより、配偶者の一方が経済的にハラスメントを受けた場合の保障がなされている。そして、配偶者が死亡した場合はこの取り決めにより二人で築いた財産を優先的に承継できるようになっている。

 結婚している場合、基準を満たせば税の一部が減額されたり(配偶者控除)、国民年金において優遇されたり、夫婦を経済的に支援する制度が用意されている。離婚、つまりパートナー関係を解消して別れる場合にも相手の意見を無視した一方的な解消は認められず、相手が貞操を守る義務を怠っていた場合は慰謝料を請求する権利が与えられている。

 また、配偶者が事故にあったり急病になったりした場合の面会の権利、手術の立ち合いをする権利、病状を知る権利、刑務所等でも面会できる権利が与えられている。 そして結婚することにより国籍の異なるカップルでも永住権が与えられる等の措置により、離れて暮らさなくてはならない心配から解放される。

  これらの法的効果・権利のうち、いくつかは事実婚カップルにも認められているが、それも異性間のみであって同性カップルにはほとんど認められず、それが同性カップルの生活を困難にしている

 

日本において“結婚できない”ということ 

 どのような形で関係を築いていくかはカップル間の自由である。それぞれの考えのもと事実婚を選んだり、公正証書を作成したり、結婚という制度を選んだり、人生を共にする方法はさまざまだ。

 しかし、選択しないことと選択できないことは全く異なる

 現在の日本では、同性カップルはたとえ事実婚と同じ状態でも共有名義で住宅の契約ができない。同棲している一方が困窮しても異性間ならば受けられる支援が受けられない。

 パートナーが緊急入院・手術した場合は家族またはそれに準ずる関係として認められず、面会・立ち合いができない。パートナーの病状を知ることもできない。もしパートナーが死亡した場合も伝えられず、パートナーの家族に一言「あなたは他人だ」と言われてしまえば何も相続もできず、決定権もない。パートナーと国籍が異なる場合、病気や失職で滞在ビザの条件から外れてしまえば離れて暮らすことを余儀なくされる。

 この状況で暮らしていくしかない同性カップルは、法の下で平等な権利を保障されていると言えるだろうか。

 

3.同性婚についての差別と偏見を壊す 

 同性婚の実現が難しいことの理由に、多くの反対意見が挙げられる。その反対意見について、主に言われているものを紹介する。

 

 「同性間の恋愛は反自然的だ」

 少なくとも現在の日本では、人間は異性に恋愛感情を抱くという決めつけが根付いている。しかし自然界では同性愛や性転換を行う動物が鳥類や哺乳類を中心に1500種以上見られ、同性愛は生物学的に見ても普通な、自然界でもよくあることであると証明されている*5

 また、WHO、日本厚生労働省日本精神神経学会も「同性愛は異常とは見做さない」と明言している*6

 「生物学的に同性愛は異常」という意見もよく見かけるが、これは生物学を理解せずただ偏見の助長に利用したいだけの言説である。生物学のうえでは、同性愛は有性生物として生殖はできないが、確実に存在している。人類という種の生物の中で一定以上の割合で存在する(起きる)同性愛は、生物学的に正常な行動の一つだと考えられる。

 そして種のバリエーション(多様性)を認めず、科学や誤った生物学を持ち出して個体に優劣をつけたり異常扱いしたりする優生思想は、最大の差別であり、それこそが生物学に反しているのだ。*7 *2017/02/23追記

 

 憲法違反である」

 憲法24条1項に「婚姻は,両性の合意のみに基づいて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない」という結婚を異性間に限定する記述があるため、憲法同性婚を禁止しているという意見があるが、この意見に即するならば、高校無償化法は憲法26条で「無償教育は義務教育課程に限定」されているため違憲になってしまう。

 教育を受ける権利と同じように、結婚する権利を望んでいるのに行使できない人がいるなら法を新たに整備するべきなのだ。

 

 「生産性がない」

 結婚はカップルが子供をもうけることを想定している制度であるが、決して子供を産むためのパートナー契約ではない。異性カップルにも子供をつくらない選択をする人、事情があって子供をつくれない人がいる。当たり前だが、そうした人たちにも等しく結婚する権利が与えられている。

 この意見はお年寄りの再婚や、生殖しない・できない人たちの結婚を否定しているのと同義、つまり「何らかの形で子をもうける人たちだけが結婚するべきだ」ということであり、その主張に同性婚だけを巻き込むのは頂けない。なにより、日本において生殖の有無は結婚の条件に関係がないのだ。

 生産性という言葉を持ち出しても、子供をもうけることのないカップルから結婚の権利を取り上げることはできない

 

 少子化に拍車をかける」

 同性婚の整備によって子どもの産まれてくる割合が変わるだろうか。同性婚ができるようになっても、それまで子どもを産もうと思っていた人がそれを断念することはないだろう。そして、同性婚できないからといってパートナーと別れて異性と結婚し子どもをもうけようと考える同性カップルもいないだろう。

 このことについては、同性婚もしくはそれと同等の契約が可能な諸外国において特に少子化の傾向がないという統計結果がすでに出ている*8

 また、既婚で子どものいる同性愛者は確かに存在するが、それは自身のセクシャリティの自覚が遅かったり社会的な理由でセクシャリティを隠して結婚していたりする人たちであり、その苦悩を考慮せずにただ少子化に貢献した人として認識するべきではない。

 

  「日本の伝統的家族観の破壊」

 ジェンダーセクシャリティにおける日本の伝統的な価値観とは何を指しているのだろうか。江戸時代までの前近代の、一緒に住んでいる相手が「伴侶」であると帳面に記されていた状態だろうか。それとも、明治以後の近現代の、近代戸籍制度だろうか。同性婚を否定したいということは、近現代の150年ほどのことを指しているのだろう。

 しかし、日本の伝統宗教(神道・仏教)には男色や異性装を禁じる宗教規範はなく、明治以後も実際には同性挙式や事実上の同性婚が行われていたのだ。*9

 伝統や価値観はある社会や文化圏によって人工的に作り出されたものである。それの保護は大切なことではあるが、時代や地域によって全く異なる「価値観」を持ち出して誰かの自由な選択を阻害することはそもそも人権の侵害にあたる。

 

 「結婚以外の選択肢がある」

 本人たちが望んで他の選択肢を選ぶことになんの問題もない。しかし、先述しているように同性カップルに結婚という選択肢がそもそも与えられておらず、望んでも結婚できない現状を問題視しているのだ。これに「結婚以外の選択をしろ」と意見するということは、同性カップルに結婚の権利はないと言っていることに他ならず、カップルの性別によって権利と自由が制約されている現状のなんの解決にもなっていない。

 

 「子どもに悪影響だ」

 同性婚が実現してライフスタイルの多様性が認められるようになった社会のどこに子どもに悪影響な部分があるのだろうか。

 性に関係なく平等が保障され権利が侵害されない社会か、同性同士で恋愛をする少数派は異常で生産性がなく国や他人に悪影響を与える存在だと言われ権利を主張しても反対される社会か、子どもたちに悪影響なのはどちらだろうか。

 また、子ども世代にも、常にマイノリティは存在している。子どもたちに悪影響を与え、差別と偏見を植え付けるのも、当事者の子どもたちを苦しめるのも、子どものことを考えているふりをして自分が好きになれない人たちを社会から締め出そうとしている大人である。

  2017年には同性婚を導入した州での学生の自殺率が低下したという調査結果が出ている。*10「同性愛は悪」という差別こそが、子供に悪影響を及ぼし生きる希望を奪っていたことが証明されたのだ。 *2017/02/23追記

 
 「不法移民の手段に悪用される」 

 仮に同性婚が不法移民の手段に悪用されたとしても、それはまた別の問題である。結婚制度の悪用を危惧するなら、それは同性婚だけの問題ではなく、結婚制度すべての問題となる。

 リスク回避のため、などと言って一部の人々から「自由恋愛・結婚の権利」を剥奪することは、日本が法の下の平等を保した法治国家であるかぎり、そもそも許されない侵害である。国益や国の都合によって人権が制限されることは、日本ではあってはならないこととされているのだ。*11 *2017/02/23追記

 

 以上のことから分かるように、同性婚に対する反対意見は同性愛や同性カップルに対する根拠のない偏見や、セクシャル・マイノリティは少数派なのだから多数派の偏見によって権利が侵害されたままでいいという傲慢な差別を含んでいる。

 同性婚が反対される正当な理由は存在しない。同性婚を望む当事者やそれに賛同する者でときにはメディアやSNSの力を借りてこうして伝えていきたい。

 

4.同性婚に理解ある社会を創っていく

 
日本で同性婚は実現できるか 

 アメリカの連邦最高裁判所は2015年6月26日、アメリカ全土で同性婚を認める判決を行った。

 判決文は「訴訟を行った当事者(同性愛者、両性愛者、その他同性とパートナーになり得るセクシャリティの者)たちは結婚に敬意を払っているからこそ自分たちにもその権利が与えられることを願っており、法の下で平等に尊厳が与えられることを願っているだけである。アメリカの憲法は国民全員にその権利を与えているといえる。よって、同性婚を禁ずることを禁ずる。」*12 というものである。

 日本国民も憲法によって法の下の平等が与えられている。にもかかわらずパートナーが同性のセクシャル・マイノリティであるというだけで結婚できない現状は、法の下の平等に矛盾している。同性婚を禁ずることを禁ずる」という判決は、日本の憲法にもあてはまると考える。

 

 知ること、知ってもらうこと

 憲法が作られたとき想定されていなかった、または憲法に明記されていないが今の日本に必要なことは、私たちが声をあげて新たに決めることができるのだ。

 東京都の数区で同性パートナーシップが議論、可決され、日本は今まさに同性婚の実現に向けて歩み始めたと言える。この問題がより広く意識されれば、解決に向かって進むうちに同性婚もしくはそれと同等の契約を選択できる社会に近づいていくだろう。そのため、私も同性カップルの現状を伝え、権利を主張する活動に積極的に関わっていくつもりである。

 

5.おわりに 

 同性婚もしくはそれと同等の契約ができる社会、性に関係なく愛する人と人生を共にする選択を平等に行える社会を目指すためには、良識ある大人が知識を持ち、積極的に差別と偏見に立ち向かっていかなければならない。

 そうすることが制度を変え、教育を変え、人の意識を変えていく。私たちの行動が、現在の同性カップルや私を含むセクシャル・マイノリティが感じている不安や生きづらさを感じずにすむ社会を創ると信じている。

 

 ●2021/03/17追記

同性婚不受理は違憲」。札幌地裁が画期的な司法判断です。全国5地裁で争われていた国家賠償訴訟の最初の判決で、同性カップルの婚姻届不受理は憲法14条の「法の下の平等」に反する、と断じられました。

 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20210317/k00/00m/040/037000c

 

 歴史的な判決です。日本において「同性婚できないことは違憲」という司法判断が下されました。これは同性婚法制化に向けた大きな一歩であると思います。

 婚姻制度というシステム自体に思うところはあれど、今現在そのシステムの希望者の中に恩恵を受けられる人と受けられない人がいるのは不平等だと思うので、早く同性婚できる社会になってほしいものです。そして、希望者がみんな出来るようになった上で、したい人はする、したくない人はしない、で生きていける社会にも。

 (同じく夫婦別姓/夫夫別姓/婦婦別姓も。したい人たちはする、したくない人たちはしない、それでいいと思う。)

 

参考文献

●杉浦郁子、野宮亜紀、大江千束 編著『プロブレムQ&A─パートナーシップ・生活と制度[結婚、事実婚、同性婚]緑風出版(2007)

●谷口明広『障害をもつ人たちの性 性のノーマライゼーションをめざして』明石書店(2003)

●綾部恒雄、桑山敬己 編『よくわかる文化人類学 第2版』ミネルヴァ書房(2014)

●クリストファー・ライアン、カルシダ・ジェダ、山本規雄訳『性の進化論 女性のオルガズムは、なぜ霊長類にだけ発達したか?』作品社(2015)

 

 

*1:日本国憲法第24条

1項「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」

 2項「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」

*2:日本国憲法第13条 幸福追求権

*3:電通ダイバーシティ・ラボ「電通ダイバーシティ・ラボが「LGBT調査2015」を実施 ― LGBT市場規模を約5.9兆円と算出 ―」(2015)http://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2015041-0423.pdf

*4: 同性婚人権救済弁護団(LGBT支援法律家ネットワーク有志)「人権救済申立書〔概要版〕」同性婚人権救済弁護団 | 私たち同性婚人権救済弁護団(LGBT支援法律家ネットワー ク有志)は,現在日本において,同性婚ができないことは人権侵害であるとして,日本弁護士連合会に対して人権救済を求めます

*5: Jacques Balthazart『Biologie de l’homosexualité. On naît homosexuel, on ne choisit pas de l’être"(Biology of homosexuality. We are born gay, we do not choose to be)』Mardaga (2010)

*6:同性愛者は病気なのではないですか? | EMA日本

*7:「優生思想は生物学的に完全に間違っているし、完膚無きまでに否定されてきた」:福岡伸一青山学院大学教授(2016年7月29日報道ステーション

*8:同性婚を認めると少子化に拍車をかけるのではないですか? | EMA日本

*9:歴史の中の多様な「性」(1) | カルチャー&ライフ | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

*10:同性婚先行導入州で高校生の自殺率低下、米調査 (AFP=時事) - Yahoo!ニュース

*11:第9回 「公共の福祉」ってなんだろう?

*12:同性婚、全米で合法 最高裁「禁止の州法は違憲」」『日本経済新聞』(日本経済新聞社、2015年6月26日付)