『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のアジア人表象について

#TheFalconAndTheWinterSoldier 1話を観て思った #StopAsianHate のこと。

『ファルコン&ウィンターソルジャー』面白かったし、冒頭のサムの活躍めちゃくちゃ格好良かった〜!!最高〜!

という気持ちと同じだけある、不安な気持ちについて。

『ファルコン&ウィンターソルジャー』のネタバレ有

バッキーは「洗脳されてウィンターソルジャーとして任務していた時代に犯した犯罪」への贖罪を、サムは「国家の任務のために家庭を蔑ろにし続けたこと」への贖罪をする第一話。テーマの一つが贖罪なんだろうなと思う。

それに加え、メインの展開としては「誰が盾を継ぐのか?」つまり「誰が次のキャプテン・アメリカなのか?」という物語が進行する。

まだ第一話しか配信されていない状態だけど、私は不安な要素がある。それはバッキーが過去に「非白人(アジア人)を殺害していること」が彼のトラウマや苦悩として悲劇的に描かれていること。

現在アメリカで暮らすバッキーはヨリ・ナカジマという日系の老人と親しくしている。このナカジマさんこそがバッキーが過去に殺害したアジア人の父親であり、そしてナカジマさんは二度と帰らぬ息子と隠された真相にひどく心を痛めている。バッキーがナカジマさんと親しくしているのは、戦時を知る者同士でウマが合うからというだけでなく、彼の息子を殺害したことの贖罪でもある。(バッキーの贖罪手帳にナカジマさんのお名前ありましたよね)

さらに、ナカジマさんが通う日本食料理店の店主(お店を一人で切り盛りしている様子を見るにおそらく)のアジア系女性とバッキーはデートをする。ナカジマさんの言動を見るに、バッキーは彼女を恋愛対象として好ましく思っており、彼女もバッキーを常連だからというだけでなくデートをOKするくらいには好ましく思っているようだ。

『ファルコン&ウィンターソルジャー』の製作が決定したのは2019年、そこから撮影し製作し、今日の配信まで2年のタイムラグがある。それは分かっている。しかし今この瞬間アメリカだけでなく欧州ではアジア系コミュニティへのヘイトクライムが相次ぎ、問題になっている。

一昨日はアジア系女性たちが8人も殺害された。警察はこのヘイトクライムに対し、「彼にとって不運な日だった(だから凶行に走ってしまったのだ)」と犯人を擁護した。その日は犯人にとって不運な日で、さらに犯人は性依存症であり、その抗えぬ欲望のせいで、欲望の対象であるアジア人女性の誘惑を断とうとして、アジア人女性を大量に殺してしまっただけなんだ、と。

圧倒的マジョリティである白人男性が「不運にも」「抗えず」非白人を殺害することは、悲劇的で同情の余地があるものとして扱われる。

バッキーが「不運にも(洗脳され)抗えず」アジア人を殺害したことは、明らかにこの物語の核となる設定だ。

バッキーは贖罪しようと被害者の父であるヨリ・ナカジマの世話をする。何も知らないナカジマさんはバッキーと友人になり、そして行きつけの店の店主であるアジア人女性をバッキーに紹介する。バッキーはそのアジア人女性とデートをする。デート中にナカジマさんの息子の話題になり、耐えきれずデートを中断して女性を放置して帰宅する

洗脳され暗殺者として働かされていた時代のトラウマを抱えるバッキーの苦悩を描いていることは痛いほど分かる。私はMCUのファンだしバッキーも大好きだ。しかし、アジア人を殺害した白人男性の苦悩にばかりフォーカスして、殺害された被害者の遺族やアジア人コミュニティ、アジア人女性を「贖罪」(これも加害者の白人男性が許されたくて心の平穏を求めてやっていることである)に利用している展開であったという指摘は免れないと思う。

今後バッキーの「贖罪」がどうなるのかによっては、私はバッキー/ウィンターソルジャー周りの物語をこれまでのように観ることはできないかもしれない。すでにファンダムで言及されているけど、あまりにタイムリーすぎるため放送日をズラすべきだったのではないかと言う指摘には同意です。

(悲劇の白人男性と、それを慰めてアドバイスもしてあげるマジカル・アジアンの女性なんていう、アジア人女性のトロフィー化を再生産をしないことだけ祈る)

サムの「仕事を優先して家庭を蔑ろにし続けてきたことへの贖罪」というのは、トキシック・マスキュリニティから離脱する物語ぽくもあり、とても良さげ。

次のキャプテン・アメリカが求められている理由が作中の演説によると物凄く国家主義的というかトランプ前大統領がalt-right層に向けて主張した「アメリカ・ファースト」、ハッキリ言えばMAGAっぽかったので、サムは「アメリカを守るヒーロー」ではなくて、やっぱり「世界を守るヒーロー」として自分らしくファルコンで居続けるのかもしれない。キャップも大好きだけど、ヒーロー名が「キャプテン・アメリカ」というのも一歩間違うとファンダムと国粋主義が合体しそうで怖いなと思っていたので、EGを機にこのままMCUではキャップは永久欠番の方向もアリなのでは、など考えた。

盾だけは武器として継いだらどうでしょうか。盾を継ぐならスティーヴの意思を理解しているサムだろうし。

ここまで書いて思ったことをもう一つ。

MCUではホークアイのドラマもDisney+で配信予定だけど、もう無理なんじゃないかな

MCUのキャラクターはみんな好きだけど、EG観てからずっとホークアイのスピンオフはやるべきじゃないと思ってた。ホークアイ/クリント・バートンは好きだけど。ホークアイを誰か(おそらくバートンの娘)に継がせるなら、スピンオフは継がせた状態から始めるしかないのでは。

EGでバートンは、IWでサノスに指パッチンで家族を消されてから5年間、メキシコや日本という中南米とアジアで現地のゴロツキを私刑で殺してたことが明らかになっている。殺害していた対象がマフィアやヤクザのいわゆる悪人とされる人たちとはいえ、中南米やアジアまで行って、私刑で、「私の家族はサノスに消されたのにお前たちはなぜ生きている?」(EGのセリフ)というモチベーションで、非白人を殺して回ってたんだよねバートン。

バートンが家族を失って悲しみの八つ当たりをする先が有色人種であることは、EG公開時にすでにファンダムでも批判されていたけれど。もうこれを「贖罪」させることは、いくらバートンがホークアイとしてEGで世界を救った一人であってても無理だと思う。再登場したらローニン時代の5年間に触れざるを得ないし。EGでなんとか一度完結したのだし、このままフェードアウトが良いのでは

(再登場させるなら上記の行いを裁く構成しかあり得ないし、そうまでして加害者になってしまった白人男性ヒーローの贖罪ストーリーを何百億もかけて製作することさえ、有色人種をどれだけ殺そうと何回もチャンスもらって主役としてスポットライト浴びられる特権なんじゃないのと思ってしまう。裁かれないならこのまま忘れたい)

バートンがローニンになって中南米やアジアで現地人を殺していたことを「家族を失ってしまった悲劇のせい」とエクスキュースするのは、今まさに現実で問題になっているアジア人女性8人が殺された事件の犯人を「不運な日だったせい」と庇うのと同じだから。

白人男性が非白人を殺すのを悲劇的に描くことの是非が問われるのは仕方ない。というか当然だ。今まで問われて無さすぎたんだ。

#StopAsianHate

このハッシュタグは、アジア系・太平洋系へのヘイトクライムに対して反対し、AAPIコミュニティへの連帯を示すタグです。

ちなみに私は日本人であり華裔。アジア人女性として欧米(米ハワイと英ケント)で暮らした経験があるし、日本で嫌中ヘイト発言されたこともあるので、昨今の状況とこの物語がどうしても生活にリンクしてしまって客観的に観ることはできないかもしれない。

追記。

最終回まで観たが、『F&WS』におけるアジア人/AAPI コミュニティの描かれ方は、最後まで白人男性のヒーローである WS/バッキーの悲劇的な内面の付属物であったと私は感じた。このシリーズを通して、アジアの表現はオリエンタリズム的だ。

F&WS』までのMCUではアジアは「危険な無法地帯」としてしか描かれておらず、登場するアジア人/アジア系の多くが「殺人被害者」「無表情な変人/何を考えているかわからない人」「地元マフィア」といった存在なので、こうした他者化のステレオタイプに当てはまらないアジア系キャラが登場することが待たれる。