『アベンジャーズ/ エンドゲーム』のソーについて

アベンジャーズ/ エンドゲーム』(Avengers/ Endgame)



3回観て、ずっとソーのことを考えているのでメモを兼ねて書いた。ネタバレ有。



冒頭、ソーはひたすら無言だ。

トニーがアベンジャーズ基地に帰還してから、ストームブレイカーに全く臆さないキャプテン・マーベルの反応を見て「I like this one. 気に入った」と言うまで、ソーは一言も話さない。

サノスに復讐する戦力として好ましい者が現れたと確認して、やっと口を開く。そして、この時点ですでに(大事な会議中なのに)ビールを飲んでいる。

ちなみにトレーラーだとソーは「I like this one.」と言ってからニコッとするが、本編ではそのニコッとするシーンはなく、ソーは無表情のままだ。

宇宙船でサノスの農園に向かう途中も、ソーは口を開かず、誰とも目を合わさない。

サノスを襲撃した後、ストーンが消し去られたことが発覚するシーンでは、キャラごとにアップが写りそれぞれ一言何かこぼすが、ソーは数回アップが映されるにも関わらずここでも何も話さない。引き締められた口元と、耐えるように揺れる義眼の瞳。サノスが娘に謝罪しているとき、これ以上耐えきれないとでも言うように雄叫びをあげてサノスの首を切り落とす。

そして切り落とした首を見て「I went for the head. 頭を狙ったんだ」(字幕では「首を取った」)と言い放ち、その場を去る。まるで、IWラストでサノスに「You should have aimed for the head. (頭を狙うべきだったな)」と言われたことを打ち消すように。

IWで「Thanos killed my brother. サノスは弟を殺した」と口にしてから、おそらくソーの頭の中をずっと占めていた復讐。その復讐を成し遂げたのに、何も変わらない、葬い合戦ですらない。去るソーの背中がぼやけていくカットは、信じられないほど絶望感があった。

そこから5年後、バナーとロケットがニュー・アスガルドにソーを迎えに行った際、ヴァルキリーはバナーに「彼(ソー)は会いたがらない」と言い、そして(字幕では「1ヶ月に一度降りてくる、ビールを取りに」と訳されていたが)、「We only see him onece a month, when he comes in surprise. 彼に会えるのは1ヶ月に一度だけ、彼がサプライズしに来るとき(ビール樽を見る)」と伝える。この「surprise」の言い方は、明らかに『Thor Ragnarok』でロキが言った「サプラ〜イズ」を真似ており、バナーにはソーが「今どうなっているのか」が分かるようになっている。ソーは「サカールにいたときのロキ(アスガルドを捨てていた)」状態なのだと、みなまで言わずともバナー(そして視聴者)に伝わる、いいセリフだと思う。

小屋にいるソーは、姿が映る前から口数が明らかに多くベラベラと話し続けていて、次いで映った体型も以前とは変わり、肥満(元の筋肉質な体の上にたっぷり皮下脂肪が乗っていることが見て分かる体型)になっている。バナーとロケットに気づいて笑顔で駆け寄る様子を観ると、この5年でソーは「サノスを殺した怒れる雷神」から「陽気なビール腹の兄ちゃん」になったのかと思い混乱する、が、ソーが人と目を合わさずヘラヘラ笑いながら支離滅裂な話をし酒をガブ飲みしてゲームチャットで子供相手に罵詈雑言を吐いている様子を立て続けに見せられ、ソーの精神状態がひどく不安定なことに気づく。

サノスの名前が出たとき、ソーの顔から笑顔が消える。ベラベラと止まらなかった口数もピタッとなくなり、途切れ途切れにしか話せなくなる。「Don't say that name. その名前を言うな」と絞り出したソーの声は隠せないほど震えていた。ソーはサノスを恐れていた、サノスを止められなかった記憶を恐れていた。震える手で酒を煽り、何も問題はないと言いながら自嘲的に笑い、「自分には何も出来ることはないから帰れ」と2人を追い返そうとする。

ソーは、どう見ても心的外傷によって引きこもりになりアルコール依存症になっている。IWでは「I'm only alive because fate wants me alive. 運命が俺を生かそうとしているから俺は生きている」と言い、涙を流しながらも気丈に振舞っていたが、今は生き残ったことに苦しんでいる。明るく溌剌としていたソーはここにいない。

キャップはグループセラピーで「世界はこの手にある、大事にできないなら生き残った意味がない」と言ったが、もはやソーは全てを失い、すでに世界は取りこぼしたし生き残った意味もない、と言わんばかりだ。

ロケットから「船にビールがある」と言われ、やっと「What's kind? どんな銘柄?」と返して、目に涙を浮かべながら小屋を出ようとするソーを見て、私はすでに泣いていた。

ところで、オンラインゲームでコーグを煽ってソーにブチ切れられたNoobmaster69(字幕はヌーブマスター)、noobが「カス初心者」みたいな煽りスラングで、69はいわゆる6ix9ineとか卑猥な意味があったり、あと69には太極図の陰陽の意味もあるのかな、確か。あのNoobmaster69はただの小ネタなんだろうけど、次作以降で「実はこの人がNoobmaster69でした〜」的な小さい種明かしやってくれないかな、とか考えた。

タイムトラベル装置を制作中のアベンジャーズ基地に着いたソーはサングラスをしており、早速ビールを開けて髭が濡れるのも構わず煽る。ソー(と中の人クリス・ヘムズワース)の瞳はサファイアブルーなので、人類基準ならサングラス必須の瞳の色だが、ソーはこれまで炎天下だろうと炎の中だろうと雷を纏おうと裸眼だった。そりゃそうだ頑丈なアスガーディアンで瞳まで雷バチバチの雷神様なんだから。

なので基地でソーがサングラスを外さないのは、5年に渡る引きこもり生活で瞳がまだ明るい場所に慣れていないからか、後のシーンで目薬を点眼してるのを見るに義眼の調子が良くないからか、人と視線を合わせられないことや涙が浮かぶのを隠そうとしているからか、あるいはその全て、のどれかだろう。

クリントやスコットがタイムトラベルのテストをしているとき、ソーはサングラスをかけているかヘッドホンをしているかで、まるで五感のうち何かを遮断していないと酒なしでは立っていられないかのようだ。実際、MCU過去作を観るかぎりソーの視力や聴力は人類のそれより優れているのだろう。

頑丈で、五感も優れ、寿命も長いからこそ、生き残り、壊れきれず、鋭さを麻痺させねば今の世界に耐え切れない、ソー。

規格外の体格であるハルクを除いて、人型キャラの中ではトップクラスに身長も体格も大きい(クリス・ヘムズワースは身長191cmです)ソーだけど、どこか所在無さげに体を揺らして自分の命を持て余しているソーは、タイム泥棒のために集まったアベンジャーズの中で一番頼りなさげで小さい子供みたいに見えた。

アベンジャーズが揃って「タイム泥棒」でのストーン回収について会議する場面では、リアリティ・ストーン(エーテル)の説明を任されたソーがビール片手に寝落ちしている。微動だにしないソーを見たメンバーが「寝てるの?」「たぶん死んじゃってる 」と会話を続ける。酒浸りで激しい躁鬱を繰り返しているソーが突然眠るのは、依存症のわかりやすい離脱症状だ。

目覚めたソーはリアリティ・ストーン(ちょうど『Thor DarkWorld』の出来事だ)について話すが、話はあっち行きこっち行きし、ジェーンとフリッガの話になった時点でソーは涙目になってしまう。家族の死をこれ以上思い出すまいとしているのか、涙目になった次の瞬間には途端に明るく別のことを話し始める。「Nothing lasts forever. The only thing that is permanent in life is impermanence. 永遠に続くものはない。人生において唯一確かなことは、永遠などないということだ」というセリフは、数千年という永遠に近い人生を生きるソーが全てを失い以前とまるで変わってしまった今やけに明るく語るからこそ、より痛ましく聞こえるセリフだった。

ソーの精神状態を心配して説明を止めに入ったトニーが「卵?朝食?」と聞くが、これはアメリカでは定番の二日酔い用の飲み物プレーリーオイスター(ソースと胡椒をかけた黄卵)と、二日酔い用のブレックファストのことだろう。それに対して、ソーは「それよりブラッディマリーがいい」といい、カクテルのブラッディマリーを欲しがる。ブラッディマリーは度数高めのカクテルながら、イギリス(ソーは『Thor』時点ではイギリス英語を話していて、今回もアスガルドではイギリス英語気味だったね)では二日酔いのとき飲む定番のものだ。ソーがブラッディマリーを欲しがっていることからも、完全な断酒はまだ自信がないが、酒浸りの生活からは抜け出そうとしていることが伺える。もう泣ける。

タイム泥棒の直前、キャップがスピーチで「Look out for each other. お互いに気を配れ(お互いを守れ)」と言ったとき、下に目を逸らしてしまうソー…。人と目線を合わせられなくなって、誰かを守る自信もなくなってしまってしまったんだね…。

タイムトラベルして『Thor DarkWorld』の時期のアスガルドに行ったとき、ソーは獄中の弟ロキを一度横目に見たかどうか(ロケットを振り返っただけ?)ですぐ何もアクションせず城へ忍び込む。思い出話だけで涙目になっていたときと違い、えらくドライだ。IWでは「弟を殺されたこと」がかなり大きな怒りになっていたはずだが…、と思っていたら、ジェーンや母に接触しなければならない局面になってソーはパニック発作(panic attack)を起こす。ロキという生きている家族を見たとき、何もしなかったのではない、何も出来なかったのだ。失ってしまった者を直視することさえ今のソーには難しかった。

ロケットに喝を入れられ、そして泣き、「I feel like I’m losing it. 失敗する気がする」と弱音を吐く。俺たちならできると励まされて一瞬ハイになるが、すぐ「I can't do this.」とつぶやき逃げ去ってしまう。

本人が自覚している以上にソーはボロボロだ。確かに、大切な人を亡くしたのはソーだけではない。しかし、ソーは1500年の人生における全てを失くした。空っぽの体に復讐の炎だけを詰め込んで、命を投げ打って戦いに挑んだが敗戦に終わり、なけなしの復讐さえも絶望に終わった5年前。あれほど太陽のように明るく雷の如く鮮烈な強さを誇り何度も世界を救ったマイティ・ソーは、今やこんなにもボロボロになってしまった。こんなの泣いてしまうでしょ。ソー、逃げていいよ、今までの分も逃げていいよ…。

ところで、ソーのアスガルドでの英語はcan'tの発音しかりかなりイギリス英語っぽかったですね。最近は初期の頃にくらべてかなり砕けた話し方になっていたけど、王宮での話し方や振る舞いの仕方が染み付いてるのかな…。

コソコソしてたら母フリッガに見つかってしまうソー。本当に酒を取りに行こうとしてたのか、本心では見つかってしまいたかったのか、どうなのかな。

母フリッガに見つかり「You're better off leaving the sneaking to your brother. 忍び足は弟に任せた方がいいわよ」(字幕では「ロキみたいな真似して」)と言われて表情が固まり、なんとか緊張のしすぎでヘラヘラしながら嘘八百ついて切り抜けようとするも、フリッガに聞かれると未来から来たことをすぐ認めて泣いてしまうソー。あまりに分かりやすく幼くて、この5年間でソーには心許して話せる相手がいなかったんだなって分かるし、「母上とお話したかったんです」って泣くソーを見てるとこっちまで泣けてくる。

フリッガの部屋で、サノスを殺したときについて泣きながら酒を煽って話すソーは、自分を「idiot with a axe 斧持ったバカ」と評する。(フリッガは「Not idiot, failure? Absolutely. バカじゃないけど落第者」と分析する)

フリッガから「自分が何者であるか、何者になりたいかを理解している者がヒーローなのだ」と説かれたソーは、去り際にムジョルニアを呼び寄せる。ムジョルニアを掴んだソーは、少し気を取り直したように「I'm still worthy. 俺はまだ価値がある」(字幕「俺はまだやれる」)と口にする。

もう自分には価値なんかなくて、何にも相応しくないと思ってたんだよね、ソー…。このシーンのBGMが「Come And Get Your Love」イントロで、心身共にボロボロのソーが自尊心を少し取り戻すシーンとしてめちゃめちゃ上手くて、何回観ても泣く。フリッガの「サラダも食べなさいね」とロケットの「めんどくせぇ」でコメディチックになっているけど、ソーの再出発の第ニ歩目(第一歩は小屋を出たときだと思う)だよね。

タイム泥棒から帰ってきて、ストーンは揃ったけどナターシャは亡くなってしまった。湖畔でアベンジャーズ5人集まっているとき、ソーだけは「何?何してるんだ?暗い顔するな、ストーンはあるんだ、生き返らせればいいだろ」と事態を把握できていない。

ストーンがあればサノスのsnap(指パッチン)で消えた人々を取り戻せるが、snap以外の死者は蘇らないのだ。ナターシャもそうだ。そもそも、最初からこの計画は「サノスのsnapで消えた人々を取り戻す」ためのものだ。あのときサラサラと消し去られた人々以外は取り戻せない。

ソーだけはそれを理解していなかった。おそらく理解したくなかったのだと思う。ロキもヘイムダルも、国民の大半も、サノスのsnapで消えたのではない。snapが起きる前に「物理的に殺された」のだ。彼らは戻らないのだ、たとえストーンがあっても。ソーはそれを受け入れたくなくて、ストーンさえあれば誰もが戻って来られるのだと思い込むことで作戦に参加できていたのだと思う。

クリントに「ストーンがあっても戻って来ない」と怒鳴られたときのソーの表情。無理に明るく振舞って現実から目を背けていたのに、見たくなかった部分を突き付けられてしまったような、戸惑ってどうしたらいいのか分からないような、ともすれば泣き出しそうな顔。あんな顔のソー初めて見たよ…つらい…。

トニーとロケットがガントレットを作り、あとはsnapするだけになったとき、真っ先に名乗り出るソー。

「I'm the strongest Avenger, okay? So this responsibility falls upon me. It's my duty. 俺が一番強いアベンジャーだ。その責任がある。これは俺の義務だ」と捲し立て、他のメンバーがひとまず止めるのも聞かずに「Just let me do it. Just let me do something good. Something right. やらせてくれ。何か良いことをさせてくれ。正しいことを…」と目に涙を溜めながら話し、自分の血管にはlightning(稲妻)が流れているんだと繰り返す。

サノスでさえ死にかけたのに、ソーは率先してやろうとしている。仲間が止めるのも聞かず、自分にやらせてくれと泣きながら頼んでる。

この5年間の逃避を悔い、自分が失った人たちは戻って来ないという事実を受け入れたソーは、最期に正しいこと(snap)をして雷神として死のうとしてるみたいだった。

ナターシャが「Let me go. It's ok. 行かせて。これでいいの」と言ったのと、同じことをソーも言ってるんだよ。もう私はゾッとしてここでも泣いたよ…。

トニーに「今この瞬間に俺の血管を何が流れているか分かるか?」とソーが詰め寄ったとき、横からローディが「Cheese whiz?」って軽口入れてくるけど、あれはローディが今作では冒頭から通して軽口担当っぽかった(「サノスが老後の心配かよ」に始まり「タイムトラベル映画全般だよ!」や「パワーストーンの宮殿は罠だらけ」など)から、ローディのキャラ付けだとは思ったけど、ソーをギャグキャラ化してるとは思わななかったな。Cheese whiz発言に対して、ソーはローディを涙目で見据えて手を震わせながら指を立てて「黙ってろ」みたいなジェスチャーをしてたし、私はソーが必死でやろうとしていることがちゃんと分かったよ。

結局、冷静で身体も強いバナーがガントレットを装着したとき、苦しむバナーに「Take it off! 脱げ!」って2回叫んだソーは、やっぱり自分がやろうと思ってんだろう。

snapは成功したけど、タイムトラベルしてきた2014年のサノスたちに攻撃されて瓦礫の下敷きになったとき、ソーは一番最初に這い出してサノスを見張ってた。瓦礫に腰掛けるサノスを見付け、これが罠なことも分かっていたけど、気持ちを抑えられず、でも一人で特攻することもできず…。キャップとトニーが這い出てくるまでじっと見張っていたソー。

5年前に復讐は終えられたのに、ほんの数分前までガントレット装着に名乗り出て半ば死のうとしていたのに、また生き残ったのに、再びサノスと一戦交えなければならなくなるなんて。観てる私も置いてけぼりなのに、ソーはどんな気持ちでムジョルニアとストームブレイカーを持ち鎧を纏ったんだろうか。

キャップがムジョルニアを持ち上げたときの「I knew it!! やはりな!」で涙腺が完全に崩壊した。

「Avengers! ...assemble.」とキャップが号令をかけてヒーローが大集合するシーンで、一番最初に雄叫びをあげたソー。ソーの雄叫びに続いて他のヒーローたちも叫んで、地響きと重なって大きな音になる。MCUにおける「世界の広がり」を作ったヒーローは間違いなくソーだった。あのシーンはそれの可視化だと感じた。

その後もムジョルニアを「little one (小さい方)」と称してキャップに渡してたし、あの時点には、ソーにとってムジョルニアや王座はもう自分のものではなくなっていたんだろう。

ソーがムジョルニアとストームブレイカーを使ってサノスを抑えつけるシーンでは、ストームブレイカーの刃先がサノスの首を狙っていることに気づく。ソーはまだ、いや今度こそ、サノスの首を狙っている。それに気付いて再び泣いた。

最終的にストーンはトニーが奪い、「私がアイアンマンだ」と述べたトニーが決死のsnapでサノス軍を消し去る。勝った。勝ったが、「今の生活を守る」と宣言していたはずの、愛する人を残したトニーが大義のために自分を犠牲にした。

またソーはサノスの首を取れなかった。どんな気持ちで、ソー、自分がサノスを仕留め損ねたが故にまた一人友人が散っていくのを、ソーはどんな気持ちで見ていたの。

トニーの葬儀にソーは一人で参列し、見送るその体は、少し不安げに揺れている。

ソーはもともと立ち姿が大変サマになるヒーローで、ピンと立った姿の美しさたるやさ、さすが雷神、王様、マイティ・ソー、という感じだった。最近でも、『Thor Ragnarok』で何度も観た立ち姿、IWでワカンダの草原に降り立ったときの立ち姿、ズッシリしっかり立つソーの威厳ある姿は何も見ずとも思い出せる。

他の参列者が真っ直ぐ立っていることもあり、ソーの体が揺れているのはハッキリ言って目立つ。他に体を揺らしているのは、エンパス(共感能力者)であるマンティスだけだ。

ソーはまだ、この世界の速度についていけていない。まだ小屋から出て数日なことを考えると、当たり前だ。

本作のテーマの一つが明らかに「不可逆性」なように、ソーの心身も「元どおり」にはならない。おそらく、さらに変化していく。

ニュー・アスガルドに帰ったソーは、ヴァルキリーに王位を譲る。「Your Majesty. 国王陛下」とヴァルキリーに敬意を表して握手する際、やっとソーは落ち着いて真っ直ぐ人の目を見る。

『Thor』第1作の頃、正直言うとソーは王ひいては為政者に向いていないと思っていた。ヒーローとしては大好きだし、カリスマ性も人好きする魅力もあるキャラクターだが、王には向いていないよね…、と思ってた。『Thor Ragnarok』の時には「我が王」と呼びたいほど威厳あるヒーローになっていたが、ソーがそうなるために何を犠牲にしたのか観てきた身としては、今となっては、前述したように「ソーはもっと早く逃げても良かった…」と思い、大変しんどい。

IWからのEGは、サノスの理不尽な思想やルールからアイアンマンが身を以て降りてみせたように、絶対(inhabitants)に見えても理不尽なルールには乗らない/降りる、というのもテーマの一つだろう。キャップも「戦争によって誕生し、戦争がなければ生きられないヒーロー」だったが、ここから降りて自分の人生を生きるんですよね。

王になることは、これまでソーの絶対のルールだった。向いてなくても、あらゆるものを失っても、王になろうとした。降りていいんだよ、相応しい人に譲っていいんだよ、というアンサーは、ソーのこれまでの登場作品でも暗に示されてきた道だった。長い間王座をオーディンに任せていて、ロキが治めていても意外となんとかなっていた、ヘラは恐怖政治だったが一度は王座に近い場所にいたし、ソーが5年間引きこもっていてもヴァルキリーが皆をまとめていた。アスガルドの王の座は、実は「絶対」のルールではなかった。

今回ソーがそれを選びとって、ルールを降りた。彼は別の道を行くんだろう。「1500年生きてきて初めての行き先のない旅」だ。これまでビフレストやムジョルニアで直接目的地へ移動していたソーが、旅路を楽しむことを兼ねて船に乗る。それだけで、私なんかは泣けてくるんです。

船に乗ったソーはガーディアンズとの距離感を測りかねていて、クイルの名前は覚えてないし(というかソーはガーディアンズのメンバーの名前をまともに知らないのでは)、ナイフで決闘しろと焚きつけられても返答に困ってる。その態度の不自然さが逆に怖くて、クイルは「ナイフなんか使わないよな?な?…船長、俺だよな?な?」とソーに気を遣っている。ソーの返答「Of course. Of course... もちろん、もちろんだ…」なんて、何か企んているみたいな気配さえして怖い。

ソーの精神状態は見るからにまだ不安定で、あれはおそらく人と視線を合わせる加減や相槌打つ加減がまだ掴めてないんだろうな。最後のカットまで不安定なソーを観せてくるEG、ギリギリまで私の気力を削っていきますね…。

乗船して真っ先に地図をいじっていたし、ソーは行き先は決めていなくても「探したい何か」はあるんじゃないかと思う。

私はThorkiのshipperなので、「兄上は宇宙へロキ探しに行くんでしょ」って大声で言いたくなるんですが、まぁそれは今後の兄上にお任せします。今はただソーの全てを応援したい…。


ここまでEGの感想やらを長々と書いてきましたので、最後に私にとっての「ソー」について書いて終わる。

MCUは『Ironman』から観てますが、とくに2011年からの『Thor』シリーズのファンで、ロキもソーもめちゃ好きでね。私これまでソーのことを「ソー」以外に「兄上」って呼んでたんですよ。IWでとうとう本当にロキが死んで、ソーを兄上と呼ぶ人はいなくなってしまった。EGではソーのアイデンティティが一新された。ソーはもう今までの「兄上」ではなくなった。癖みたいなものでついソーを「兄上」って呼び続けてるけど、「兄上」って言うたびこの8年を思い出して嗚咽が止まりません。ソーありがとう、ロキありがとう。「兄上」よ、「弟」よ、Odinsons、brothers、ありがとう。MCU私をここまで連れて来てくれてありがとう。


そして、トム・ヒドルストン主演のロキ単体ドラマ『Loki』製作決定に加えて、クリス・ヘムズワースMCUの契約を更新してあと2作品出演するとかニュースになってたので、私は大喜びで踊りました。どこまでも感謝。




※私のツイート(https://twitter.com/ubuhanabusa/status/1124512237693984769?s=21)をブログに載せ直したものです。